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2010年9月13日の1件の記事

2010-09-13

全日本・諏訪魔、客席にマイクを投げつける。最適解は近くにあるはずなのに…(10/09/13 特別8)

 

 9.10全日本プロレス後楽園大会。武藤敬司 VS 船木誠勝のセミファイナルが、フルタイムドローに終わったとき、まわりの何人かが席を立ちました。

 改めて周囲を見回すと、同じような現象が、大勢ではないものの、確実に起こっている。

 時刻は、21時20分。馬場さん時代の全日本ならば、興行を終え、撤収作業も順調な時間。19時開始だったことを考えれば納得の時間ではあるものの、それでも、ちょっと押している興行かもしれない。”武藤敬司” 復帰戦目当ての観客からすれば、帰るという選択肢も無くは無いでしょう。

 でも、それにしたって、と思う。

 これからメインでは新世代軍の4人が闘います(諏訪魔・河野 VS 征矢・真田)。おそらく、団体にとって、そして新世代軍の4人にとって、特別な意味を持つ試合です。

 前三冠王者・鈴木みのるが第1試合に退き、船木と武藤がセミで華を添える状況で、 ”天下を獲った” 諏訪魔が、志を同じくする新世代軍のメンバーとともに、メインを独占するのですから。諏訪魔らの所信表明演説となる試合と言っていいでしょう。全日本にとって大きな分岐点になるはずの、地味ながら大切な試合なのに…。

 願わくば、セミで席を立った観客を後悔させるような、凄い試合をしてもらいたい。

 そう思いました。家路を急ぐ人達には相応の事情もあるのでしょうし、それを呪う道理はありませんが、こういう状況で4人が意地を見せれば痛快ではあります。

 しかし、試合はそういうものになりませんでした。

 諏訪魔のフィジカルは真田と征矢を圧倒していて、その安定感は超世代軍に対峙した鶴田を想起させます。少なくとも、そう思わせる瞬間がありました。厳しい攻めは、その瞬間、天龍を彷彿とさせます。ただしそれがうまく試合に生きてこない。相手を潰したいのか持ち上げたいのか、よく分からない試合。冷たい言い方をすれば、中途半端な試合とも言えます。

 三冠王者だし、相手は格下であること事実なのだから、もう少し圧倒するような試合をした方がいい、それで征矢や真田が生きることだってあるのに…と奇妙に感じられました。

 奇妙と言えば、試合の最終局面で出た諏訪魔のバックドロップホールド。征矢に炸裂した、説得力のある一撃。流れでカウント3がまさに数えられるというその瞬間、和田京平レフェリーがカウントを止めました。僕が見ていた角度からは、それが何故だか分かりませんでした。多くの観客も戸惑いの声をあげていたので、やはり理不尽なアクションだったのでしょう。

 征矢を叩き、意識の有無を確認する和田レフェリー。客席から「レフェリーストップか?」という声があがります。それなら3カウントを入れるべきだろう、と思いましたが、そうとでも解釈しないと不自然きわまりない状況であること確かです。

 やがて意識を取り戻した(?)征矢に「行け、征矢!」と掛け声する和田レフェリー。あるいは和田さんも、ここで終わらせたら諏訪魔らの所信表明にはならないと思ったのかもしれません。一線を越えた、温情裁定だったのかもしれない。

 しかし、そんな和田レフェリーの ”超法規的措置” の甲斐無く、征矢の回復は起こりませんでした。そのまま、新しい展開を見せることもなく、24分23秒、唐突な諏訪魔のラリアットにより試合は終わってしまったのです。

 思えば、一連の不思議な展開こそ、その後に起こることへの伏線だったのかもしれません。

 

 試合後、マイクを握った諏訪魔。

諏訪魔のマイク

おい征矢、プロレスはまだまだそんなに甘くないぞ。オレたちは、まだまだ熱い試合ができるんです。次来た時、絶対熱い試合を見せます。

» sportsnavi.yahoo.co.jp

 所信表明演説となるはずだった試合は、伝えたいことを伝えきれぬまま終わってしまった。その無念さを、率直に表した言葉です。ただその一方で、言い訳がましく聞こえてしまう部分もあり、そういうとらえ方をした観客も少なくなかったでしょう。

 続いてマイクを握る征矢。

征矢のマイク

オレたちは新世代軍、いらないです。オレは、アンタと組むより、戦いたいんだ。確かに今ボロボロかもしれない。でも、この先、何十年かかってもアンタを倒すからな

» sportsnavi.yahoo.co.jp

 劇的な発言。

 ただ、興奮しているのか、ダメージが大きすぎるのか、あるいは単純にこういうシチュエーションに不慣れなのか、何を言っているのか非常に分かりにくかった。かつての師・藤波辰爾のマイクアピールにそっくりだといえば雰囲気が伝わるでしょうか。客席からは笑い声と「何言ってるかわかんねーよ」との野次。

 その後、

浜のマイク

何、負けた感情で勝手なこと言ってんだ。オレは鈴木みのるに殴られても蹴られてもこの旗を守ってきたんだよ。一緒に新世代軍で全日本を盛り上げるって言ったんじゃないか

» sportsnavi.yahoo.co.jp
河野のマイク

オレも二番手、三番手で諏訪魔の下で収まってる場合じゃない。オレだって三冠、アジアを狙ってる

» sportsnavi.yahoo.co.jp
真田のマイク

オレも戦いたいです

» sportsnavi.yahoo.co.jp

 と新世代軍全員にマイクが回っていきます。

 しかし、それほどアピールに慣れていない面々だからというのもあるんでしょうか、時間が経つにつれ空気が緩んでいきます。シリアスなテーマなのに、いわゆる ”ツッコミどころ” がどんどん増えていく。正直、僕も苦笑しながら聞いていました。

 そして諏訪魔のこの発言。

プロレス/格闘技DX 諏訪魔のマイク

新世代軍、今日ここで終わりにしよう。

これから個人個人、それぞれが道をみつけて、新しい全日本を盛りあげようぜ。

» web.peex.jp

 緩みきった空気の中でのこの爆弾ですから、騒然となります。

 戸惑いの声が噴出します。「まだ始まってもいないだろう!」という言葉は一定の説得力がありました。征矢と真田が諏訪魔組に肉薄するような試合をしていれば、発展的解消の意味も強まり説得力もあったのに…。

 と、そういえば諏訪魔組は圧倒的な試合をしていませんでした。

 そういうことなのか…と思いました。

 でも、それは、ちょっと厳しい。

 あるいは諏訪魔の中では対戦相手2人に十分な手応えを感じていて、それを前提としての解散発言なのかもしれません。でも、それが観客に伝わらなければ、存在していないのと一緒でしょう。伝え、伝わってこそプロレスのはずです。

 場内の困惑をよそに、話を進めていく諏訪魔。

プロレス/格闘技DX 諏訪魔のマイク

この旗、5人で集まった証だろ。この旗は俺が預かるよ。本当の意味で俺たちの時代が来たとき、この旗の名のもとに集まろうぜ。

» web.peex.jp

 しかし、これにも失笑が起こります。時代が来るということは、団体のトップクラスになるということ。そのときは旗のもとに集まるのではなく、しのぎを削っていくべきでしょう。言葉の一つ一つがその場しのぎのエクスキューズに聞こえてしまいます。

 客席からは「誰かとめてくれ!」の声。それに同調するかのような笑い。

 そして最後の最後、「おい、最後、いつもやってるやつやろうぜ」といつもの締めを呼びかけた直後、突然、諏訪魔は客席にマイクを投げつけました。

 誰かが怪我をしてもおかしくない速度で。

 決定打になった言葉は分かりませんでしたが、狙いが野次の続いていた方向であったことは間違いありません。

 凍り付く場内。

 そのままリングを降り、退場しようとする諏訪魔。

 異常事態ですが、諏訪魔のテーマ曲が流れ、展開を後押しします。

 諏訪魔が、本当に退場してしまう。このままでは暴動もあり得る!

 それを和田レフェリーが止めます。

 「リングに上がれ! 手を上げろ!」

 そう言っていたように聞こえました。こんな形で興行を終わりにするわけにはいかない、そういう思いがあったんでしょう。毅然とした態度です。

 あるいは諏訪魔もそういう言葉を待っていたのかもしれません。何を抵抗することもなくリングに戻ります。最悪中の最悪だけは避けられました。この場面、和田レフェリーがいて本当に良かった。

 リングの中央、新世代軍全員で両手を上げて締め。諏訪魔は四方に礼をしたうえでリングを降りました。

 

 僕は諏訪魔の怒りを否定しません。自ら立ち上げた思い入れのあるユニットが笑いの中で終了する。耐え難いことかもしれません。プロレスに対するプライドもあったでしょう。

 だからといって野次を飛ばした観客が悪かったかといえば、そうとも思えません。野次は、多くの観客の戸惑いを代弁していたからです。突然の解散に至る経緯が観客にうまく伝わっていない、観客を置き去りにしてドラマが不思議な方向に進んでいる、それに対する異議申し立てに、一方的に非難される非があるとは思えません。

 どちらの気持ちも分かります。どちらも責めきれません。マイクを投げるという手段は責められて然るべきなのかもしれませんが…ちょっとモヤモヤします。まあ、悪者を作ってもしょうがないので、別のことを考えましょう。

 試合後のリング、どうあるべきだったのか。どうあることが理想だったのか。

 諏訪魔が手本にすべき存在は、すぐ近くにいると思うんです。

 鈴木みのるです。

 この日第1試合に登場した鈴木は、素っ気ないゴッチ式パイルで稔を屠り、格の差を見せつけました。いや格の差以上の、素っ気なさを見せたと言っていいかもしれません。勝負タイムは4分51秒。5分経過のアナウンスすらなしの試合です。

 そのときもやはり場内には戸惑いの声が上がりました。ざわめきがホールを支配しました。

 それでも、鈴木は少しも慌てず。ゆっくり立ち上がり、南側の客席に向かい、ただ仁王立ちしてみせました。これが俺の実力だと言わんばかりの堂々とした佇まいを、ただ見せつけました。次の瞬間、場内は何かを思い出したかのように大拍手。勝者をひたすら称える展開となりました。

 いつもは言い過ぎくらいの毒舌でファンの耳目を集める鈴木ですが、必要であれば動かずに喋らずに観客を納得させる。試合以外の何かの力を借りない。これが鈴木の強さであり、築き上げてきたもの。足りないものは言葉で埋めればいいという安易な考えは、リング上の鈴木に無いと思うんです。

 マイクアピールはプロレスの華。醍醐味。でも、それで埋めようと思って、埋まらないものもあります。諏訪魔のマイクも、その他の新世代のマイクも、言葉で全てを解決させようとしすぎに思えました。不慣れな言葉よりも、闘いで多くを示せるのがプロレスラーの強み。「解散! 面白くなる! 」、そう思わせる試合があれば、言葉に説得力が出てくるんじゃないでしょうか。たとえそれが拙いアピールであったとしても、観客に伝わるものがあるはずです。

 諏訪魔には、この日の鈴木のような堂々とした態度をとれる選手になってほしい。それで観客が納得するような実績を築いてほしいし、マイクに頼らずに言いたいことを伝えられる選手になってほしい。

 この男ならそれができるはず。チャンカン準決勝の鈴木戦、圧倒的なフィジカルで鈴木を追い込んだ諏訪魔なら、8月の三冠戦、近年稀に見るプリミティブな死闘で鈴木を降した諏訪魔なら、それができるはずなんです。携帯サイトのコラムやインタビューで見る諏訪魔は真面目すぎるほど真面目で責任感がある、ハートのある男。将来、団体の一枚看板になるに相応しい、心と体を持っている男。ここで腐ってほしくない。頑張ってほしいんです。

レスログ on Twitter(まだ「レスログ」でつぶやいてます)

9.10全日本後楽園大会 諏訪魔・河野 VS 征矢・真田 詳報@スポナビ(フルタイムのセミの後では…と同情する部分はありますが)

9.10全日本後楽園大会 詳報@スポナビ(真ん中へんあたりの試合の充実ぶりには目を瞠るものがありました。全日本、見に行くべきです)

maikai: 諏訪魔のマイク事件について(小佐野さんらしい目線)

 和田レフェリーに促されてリングに上がった諏訪魔に「謝れよ!」の声。

 それを「諏訪魔の気持ちも分かるよ!間違ってない!」的な声援が打ち消しました。

 あの声援に興行が救われたと思います。

 あそこで諏訪魔が謝る展開になったら、きっと居たたまれない状況になっていたはず。謝る理由があっても、それで謝るかどうかはまた別の話です。簡単には謝れない時だってあります。

 僕はああいうホールのバランス感覚、大好きです。

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